遠くへ行きたい!誰も私のことを知らない土地へ
介護の道を選んだきっかけ【第一話】をここに綴ります
少し長く、重い話です。
あえて、コミカルなイラスト
「なのなのな」さんの作品を
使わせていただきました。
最後までお付き合いいただけたら
幸いです。
伊豆の土肥温泉へ一人旅
2017年秋のこと。
仕事も環境も
人間関係も、
全て
嫌になった時期があり、
長年勤めていた
飲食店を辞め
ひかれるように
伊豆の土肥温泉へ
プラッと一人旅に出ました。
清水港から
駿河湾フェリーで
あてもなく土肥に
向かいました。
自分探しといった
大げさなものでなく
ただただ遠くへ
遠くへ逃げたかった。
当時の私は
実家に居候していたようなもの。
母とは昔から
相性があまり良くありません。
決して悪い人ではないのですが、
自分の価値観を強要するきらいがあり、
押しつけがましいところが
子供の頃から嫌でした。
私と母を取り持つ父の存在が
とても有り難かったのですが、
そんな父とも
お酒がきっかけで
大げんかをしてしまい
私は居場所を失くしました。
土肥の空は悲しい色
私を迎えてくれた
土肥の空は、
清水を出発した時とは違い
どんよりでした。
今夜はどこに泊まろう・・・
港の周辺をぐるぐる
走っていると、
旅館にしては珍しい色の
こんなお宿を見つけたんです。
【碧き凪ぎの宿明治館】
思い切って
お尋ねしたところ、
運よく空きがあり
泊まることができました。
周囲にも旅館は
いくつかあったのですが
このとき
なにか魅かれるモノを
感じたんです。
食事処で出逢った仲居さん
夕食は
素朴な漁師町のお料理。
食べやすい味付けで
量もちょうど良いものでした。
派手さがないのが
この日の私の気分に合っていました。
小キンメの煮つけが
伊豆を感じさせてくれました。
すすめられた日本酒【誉富士】
(画像お借りしています)
今夜くらいは
酔っぱらってもいいよね
いやいや
ここで酔いつぶれては
かっこ悪いよな・・・
なんてことを
考えていたかどうかは
記憶にございませんが、
2合瓶を2本飲んだ事は
覚えています。
そんなに強くないくせにね・・・
私をもてなしてくださった
仲居さんの接客が良かった!
ひとりだった私の気持ちを
リラックスさせてくれ
さすが!プロだなぁと
しみじみ思いました。
所作や話し方だけでなく
細やかなお心遣いに
感動したんです。
私の前職は
飲食店での接客業でしたので
接客に関しては
すごく関心を持っていました。
ここは老舗旅館
一流の接客です。
この仲居さんの接客は
今まで感じたことのない
安らぎのようなものを
感じさせてくれる
それに比べ、私の接客は
まだまだ未熟なもの。
これが本物の
お・も・て・な・し
omotenasi(by-Higo)
その夜は、
ほろ酔い気分で露天風呂に浸かり
土肥の夜空を見上げました。
身も心もいやされながら・・・
こんな所で働いてみたいな
あの仲居さんのような人と
一緒にお仕事ができたらな
ありえへん空想を巡らせ
眠りにつきました。
就活で運命の職場に出会う
旅行から帰宅後は
現実に引き戻され、
しばらく悶々とした
日々が続きました。
そろそろ働かないとな・・・
だるっ
貯金も減る一方です。
重い腰を上げ
就活を始めました。
キーワードは
- 住み込み
- 接客
- 50才以上可
一日も早く
地元を離れたかったため
住み込みは必須条件でした。
そんなある日のこと。
あそこだ!
これは運命?
なんと!
先日宿泊した旅館の
求人募集を
見つけてしまったんです。
これだ!決めた!!
そこからの自分の行動は
素早いものでした。
思い立ったら吉日です。
- 履歴書
- 職務経歴書
- 写真撮影
早速、連絡を入れ
1週間後には
面接のために
再び土肥温泉を
訪れていました。
仲居さんと再会する/面接の結果は?
おかみさんと、お姉さんとの
三者面接です。
あの時のお姉さんが
同席していました。
この時、このお姉さんが
仲居頭だった事を知りました。
ドキドキが止まらない
緊張しながらも
自分の思いを、精一杯伝え
面接はおわりました。
おかみさんは、笑顔が少なく、
少し険しい顔つきで
「ここは、あなたのような人が
くる場所ではありませんよ」
困惑気味な表情で話しました。
おかみさんの直感!でしょうか?
仲居頭のお姉さんが
口添えしてくださり
何とか「採用」となりました。
「良かったわね。一緒に頑張りましょ!
待ってるわ。」
お姉さんがやさしい言葉をかけてくださり
緊張の面接が無事に終わりました。
帰路で観た土肥の夕日は、
本当に美しかったです。
やっぱり運命だったんだ
自宅に戻っても
気持ちはすでに
土肥温泉へ飛んでいました。
母の怒りと泣き落とし/子供たちの考えは?
親の気持ちも考えず、
実家へ入った時の
母との約束も忘れ、
勝手に土肥行きを決めてしまった。
このまま伊豆へ行ってしまっては
父との関係も修復できない。
親に何て説明しよう。
子供たちには驚くに決まってる。
胃がキリキリと痛みました。
それでも言うしかない!
もう決めたのだから・・・
身勝手だ!といわれるのは
覚悟の上の決断でした。
予測通りの展開が待っていました。
いい年して
何を考えてるの!
わざわざそんな遠い所へ
行くのはどうして?
母は、頭ごなしに
ものすごい剣幕で
まくし立てました。
人の話など、聞く耳を持たず
興奮するばかり。
怒りはピークに達し、
しまいには泣き落としでした。
説得を試みましたが
承知するはずがありません。
お父さんだって
私と同じ考えだよ。
伊豆に行くなんて
とんでもない!
ねぇ!お父さん。
なだめたり
すかしたりしながら
・・・
どのくらい
押し問答が
続いたでしょう。
じっと黙って
聞いていた父が
重い口をひらき
言いました。
なぁお母さん。
そこまで言うなら
しょうがないじゃないか・・・
いいか!あかね
たまには顔を見せてくれよ。
いつでも
待ってるからな。
身体には気をつけてやれよ。
父に許しをもらい
話し合いは終わりました。
元々の父は、いつも
陰になり日向になり
味方してくれる
ひとでした。
先日大げんかを
してしまったけれど
やっぱり父は、私にとって
唯一の理解者でした。
ありがたい気持ちと同時に
両親を苦しめている心の痛み・・・
もう決めてしまったのだから
後戻りできない。
2人の子供たちには
電話で事情を話しました。
息子:
はぁ?まじかよ
急だな・・・
なんで?
まぁ、やってみたら
こっち帰ってきた時は
連絡よこせよ
と、苦笑いでした・・・
娘:
お母さんの人生だもん
自分の好きなように
したらいいよ
子供たち連れて
伊豆に遊びに行くからね!
こんなやりとりがあり
土肥行きを
承諾してくれました。
(息子は独身一人暮らし。
娘は結婚し3人の子育て中です。)
その後、引っ越しの準備を
着々と進め、
ついに入社日を迎えました。
土肥温泉旅館で住み込みの仲居になる
後ろ髪を引かれる思いが
なかった訳ではありません。
母を泣かせてしまい
父も苦しめてしまったから・・・
それでも私は、
小さな愛車に詰めるだけの荷物で
実家を後にしました。
ついに来ちゃった・・・
今日からここが
私の新しい居場所
人生第3の
出発点となりました。
旅館の仕事は
想像以上のハードワークでした。
重いお膳を持ち
しかも草履で動き回るのです。
着物の下は常に汗だくで、
みるみる体重が落ちていきました。
寮費もしっかり徴収され
田舎の暮らしは
想像以上に物価も高く
カツカツの生活でした。
それでも、毎日温泉に入ることができます。
しがらみのない生活が
何よりも、変えがたく
心も身体も
健康そのものでした。
こうして、念願かない
仲居さんとして
働き始めました。
土肥での暮らしは、想像以上に不便!?
近くに一軒のスーパーと
コンビニはありましたが
ドラッグストアや
ホームセンターは
はるか遠く・・・
峠を越えて
修善寺まで車を走らせることも
しばしばでした。
両親との約束で
月に一度帰省するため
旅費もねん出しなければなりません。
手ぶらでは帰るのも
情けないし意地もありました。
伊豆の名産品を手に
帰省していました。
離れて暮らしていると、
あれだけ
鬱陶しいと思っていた母にも
優しくできるんですよね。
月に1度会うくらいが
ちょうどいい距離感で
「故郷は遠きにありておもうもの」と
実感していました。
土肥での暮らしあるある
実家から土肥へは
車で5時間の道のり。
帰宅は、夜更けになることも
しばしばでした。
シカ・猪など
日常では見た事もない獣に
遭遇します。
シカは赤い目が光るから
直ぐに見分けがつきました。
路肩でジッと
車が通り過ぎるのを
待っているんですよ。
サルは
日中でもひょっこり
出てきます。
目を合わせると
襲われそうで怖い。
そっぽを向いて
こっそり通り過ぎました。
旅館の従業員の駐車場は
海岸端にあり
台風の時などは
悲惨です。
車全体に
海水が打ち付け
車ごと海にのまれる勢い!?
冷や汗ものでした。
また、海風のせいなのか?
洗濯物も、乾いてはいるのですが
スッキリしない。
お布団を干すことも
躊躇しました。
サッシの窓は
常に砂がたまり
風向きによっては
室内に侵入することも
よくありました。
仕事も暮らしも
ハードな土肥での生活。
一体、私は、ここで、何をしているのだろう。
それでも後には引けません。
ツラくはなかった。
と言えば噓になりますが、
実家に戻りたいとは
一度も思いませんでした。
最後までお読みいただきありがとうございます。【第2話】に続きます。
よろしかったらまた遊びに来てくださいね。お待ちしています。
【土肥温泉】
温泉も江戸時代の金山採掘中に涌出したのが始まりとされ、安楽寺境内に土肥温泉発祥の湯がある。 現在は土肥地内の6本の源泉を集中管理、循環配湯していることにより、泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物泉(低調性・弱アルカリ性・高温泉)となり、泉温57度の無色透明・無臭の湯で、日量約600万リットルの湯が湧出している。
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