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前編:11回目の引っ越し──再出発を支えてくれた父と、私の覚悟

新しい暮らしが始まった、あの日の朝 ばぁばちゃんの人生アルバム

引っ越しの話が現実味を帯びてきたある日、
会社から思いがけない申し出がありました。

なんと、敷金や礼金まで一時的に立て替えてくださるというのです。

月々2万円ずつ、お給料から返済していくという形で話がまとまりました。

「こんなにしてもらってもいいのかな…」

感謝と戸惑いが入り混じる気持ちのなかで、
私は自分に言い聞かせました。

「それだけ期待されているんだ」と。

そう思うことで、新たな暮らしへの覚悟が少しずつ固まっていったのです。

前回の記事はこちらからお読みいただけます。

無事に11回目の引っ越し──再出発を支えてくれた父

夕暮れの空と小さなアパートのシルエット

とはいえ、働きながらの引っ越し準備は想像以上に大変でした。

昼間は調理場で仕込みと接客、
夜は帰宅してからの荷造り。

限られた時間のなかで心も体も疲れきってしまう日も多く、
思うように進まないことばかりでした。

そんな私を助けてくれたのが、
定年後、時間の余裕があった父の存在でした。

「からだ大丈夫か?おまえもたいへんだろ」

そう言って、父は何度も足を運び、
重たい荷物を運んでくれました。

掃除も片付けも、率先して手を動かしてくれて――

その背中は、無口で、けれどこの上なく頼もしかったのです。

引っ越し先での新生活が不安でいっぱいだった私にとって、
父の黙々と動く姿は、それだけで大きな支えでした。

あの頃の私は、
「全部ひとりでやらなきゃ」
そんなふうに、肩に力を入れて生きていたように思います。

ありがたさに、何度も涙がこぼれそうになりました。

でも、黙って手伝ってくれた父の姿が、
私の心の強がりを、そっとほどいてくれたような気がしました

いまこうして、人生を振り返ってみると

私の側にはいつも父が寄り添っていてくれたように思います

静かに始まった「母と息子の新しい暮らし」

新居の古いマンション、空っぽの押し入れ

こうして、無事に11回目の引っ越しを終えた私たち。

ガステーブルは持ち込みの物件でしたが、買う余裕はありませんでした。


冬に活躍していたカセットコンロをガス台代わりに料理をしていました。

息子がカセットボンベを初めて交換したとき、

セットが甘かったのか、「ボンッ」と大きな音が鳴りました。

幸い事故にはならなかったものの、それがすっかりトラウマに。

それ以来、彼は一度もガスボンベに手をつけようとしません。

あれから15年以上経った今でも、その記憶は消えていないようです。

こうして、どうにか不便な事もしのぎながら、つつましいスタートを切ったのでした。

「からす、なぜ鳴くの」──夕暮れに重なる母と子の記憶

夕やけ空に、あの日の歌が重なる──「からすなぜ鳴くの」を口ずさみながら、息子を抱いて泣いた私

夕焼け空を背に巣へと戻っていくカラスの姿を見ながら、ふと思い出したのは、かつて息子を抱いて泣いていたあの頃のことでした。

子育ての渦中、何度も歌った「♪ からす なぜ鳴くの からすは山に…」。

息子の体を胸に引き寄せながら、歌いながら、こらえてもこらえても涙があふれた夜がありました。

カラスの声が寂しげに聞こえるたびに、自分の心の声のようで、どこへも吐き出せない思いを胸の奥にしまって生きていたのだと思います。

今こうして、また夕暮れにカラスを見上げるたびに、あの頃の私と息子の姿が重なります。

「さあ、おうちに帰ろうか」──そんな気持ちで、今日も一日を終えるのです。

初めて手にした役職

新しい暮らしが始まった、あの日の朝

新しい部屋に私と息子の暮らしの匂いが馴染んでいくにつれ、
心の中にも、少しずつ光が差し込んできました。

1日12時間拘束、休日は月に6日。

そんな過酷な労働環境の中でも、会社が引っ越しを支援してくれたことが、私の背中を押してくれていました。

「ここで踏ん張らなきゃ」「期待に応えなきゃ」
そんな思いが、私の原動力になっていたのです。

いつの間にか、任される仕事も増えていき、
気づけば私は、店舗責任者という“役職”を初めて手にしていました。

若いアルバイトさんたちをまとめ、売上やシフトの管理をしながら
お客様と向き合う日々。

体はきつかったけれど、
「自分にもできるんだ」という自信を、少しずつ取り戻していきました。

子どもたちとの暮らしを守るために、ただ必死で前を向いてきた私に、
仕事を通じて“答え”が返ってきたような気がしました。

「ああ、あの時の選択は間違っていなかった」──そう思えたのです。

あの引っ越しが、
私にとって“暮らし”と“働く”の意味を深く考え直す、
ターニングポイントになったように思います。

【次回予告】

父の支えで踏み出した再出発。けれど、人生はそう甘くはありませんでした。
抱えていた不安が、ある日ついに現実となった、あの出来事──
次回、「後編:借金の渦の中で──四谷の弁護士事務所に向かった日」をお届けします。

今日の縁側便り

家庭菜園、ゴーヤの収穫と緑のカーテン

梅雨の終わりが近づき、紫陽花の花はそっとその役目を終えました。

かわりに庭では、緑のカーテンとなるゴーヤの葉がふんわりと茂り、小さな実が顔をのぞかせています。

今年も緑のカーテンが涼しい日陰をつくってくれています。

暑い日もここで風にあたりながら、ゆっくりと深呼吸すると、心もほっとひと息つけます。

季節はそっと変わっていくけれど、そんな自然の移ろいに寄り添いながら、また自分のペースで歩いていけたらいいなと思います。

縁側で、季節のぬくもりを感じながら、穏やかな時間が流れていきますように。

いつも、お話を聞いてくださりありがとうございます。

これからも、季節の移り変わりや、日々の出来事、そして心温まるレシピなどを、ゆっくりと綴っていきたいと思っています。

どうぞ、お気軽に遊びに来てくださいね。

ではまた、お茶を淹れてお待ちしています。

おかえりなさい。

私が勇気をもらった千聖の隠れ家メルマガあなたも、こっそりのぞいてみませんか?よかったら、訪ねてみてくださいね。

「ばぁばちゃんの台所カフェ」より

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