母になった私と6回目の引っ越し、その後に待っていたこと

「かーらーす、なぜ鳴くの カラスは山に……」
子どもをあやしながら泣き、口ずさんだ子守唄。
あの頃の私は、母になったばかりの“新米”でした。
前回の「引っ越し第6号」のお話はこちらからどうぞ👇
雇用促進住宅での穏やかな日々

6回目の引っ越しでたどり着いた雇用促進住宅。
雇用促進住宅での暮らしは、思いのほか楽しいものでした。
同じような年頃のママたちが多く、自然と助け合う雰囲気が生まれていました。
交代で子どもを見守ったり、ときには家族ぐるみで河原へバーベキュー。
よそのお父さんたちも気さくで、子どもをよく可愛がってくれました。
主人は人付き合いがあまり得意ではなく、我が家は私と子どもたちだけの参加。
それでも十分楽しく、子どもたちの笑顔が私の支えでした。
「俺、自分を試してみたいんだ」

そんな穏やかな日々が続いていたある日、主人が珍しく相談を持ちかけてきました。
「転職したい。群馬に行って、単身赴任で働きたい」
「この会社で、自分を試してみたいんだ」
また!これで何回目の転職なの?
でも、いつもは事後報告だったのに、今回は相談してくれた。
それがかえって、彼の覚悟の強さを感じさせました。
群馬支店での管理職待遇。
ちょうど平成に入り、人材派遣業が盛んになっていた頃の話です。
何を言っても、決めたら曲げない人です。
私は──止めることを諦めました。
寂しさや不安はありました。
でも、
「ここなら友達もいるし、子どもと3人でやっていける」
「なんとかなる!」
そう自分に言い聞かせました。
三人暮らしと、四人暮らしの違和感

最初の頃は、月に2回は帰ってきてくれました。
会社が帰省費を出してくれていたので、
週末は久しぶりに家族4人で食卓を囲み、
子どもたちはお父さんに甘えて、楽しそうでした。
主人が帰ってくると、決まってリクエストされたのが「豚の生姜焼き」。
じゅうっと焼き上がると、香ばしい匂いが台所に広がって──
その香りで、「あ、お父さんが帰ってきたんだ」と、子どもたちにもすぐわかる。
そんな、ささやかで確かな“わが家の風景”がありました。

けれども次第に帰省の回数は減っていきます。
月に1回に。
2ヵ月に1回に…
「忙しい」と言いながら、帰省費をパチンコに使ってしまっていたこともあったようです。
もちろん、単身赴任の寂しさは理解していました。
でも、私たちの生活も楽ではありませんでした。
二重生活、時間のズレ、孤独……。
でも私は文句を言わず、帰ってくる日には家族の時間を大切にしようと心がけました。
だけど──
気づけば、次第に“3人の暮らし”が自然になっていきました。

主人が帰ってくると、家の空気がどこかぎこちなくなる。
子どもたちも、どう接していいか分からない様子。
主人が群馬に帰っていくときに、どこかホッとしてしまう私。
そんな自分に気づいたとき、胸がチクリと痛みました。
次第に「お父さんのいない日常」があたりまえになっていった頃。
夕食の支度をしていたときに、ふと子どもがこぼした
「いつも3人だね」というひと言──
あのとき胸に広がった、なんとも言えない寂しさを、今でもはっきりと覚えています。
そして、次の転機が訪れる

2年後、主人はその会社を退職しました。
仕事を辞めたあとは、しばらく何もせず、パチンコに通う日々。
そしてある日、こう言いました。
「パチンコ屋でバイトすることにした」
ああ、また一時的なことだろう──最初はそう思っていました。
ところが──社員として本格採用されることになり、イキイキと働き始めたんです。
正直、私は戸惑いました。
パチンコ屋の仕事が悪いわけではない。
けれど、かつては大手企業に勤めていた主人です。
「これでいいのかな」
「本当はどう思ってるんだろう」
そんな思いが、私の中に渦巻いていました。
戸惑いと、ほんの少しの不安。
それでも、主人が楽しそうに働く姿を見て、
「これがあの人の今の居場所なんだ」
「今、彼なりに生き直しているんだ」
と、私は受け入れることにしました。
人は変わる。
環境が変われば、生き方も変わっていく。
あの頃の私は、それをようやく認められるようになったばかりでした。
そうして新しい流れが始まると、また次の動きも──
パチンコ店での勤務が、わが家の「第7の引っ越し」につながっていくのです。
今日の縁側便り
「引っ越し19回の物語」は、まだまだ続きます。
少しずつ、丁寧に思い出しながら、これからも綴っていけたらと思っています。

【次回予告】
やりがいを見つけた、新しい職場。
パチンコ店の社員として、再スタートを切った夫。
その先に待っていたのは、わたしたち家族にとって、7回目の引っ越しでした。
「ばぁばちゃんの台所カフェ」に立ち寄ってくださって、ありがとうございます。
この場所が、あなたの心にも、ちいさなぬくもりを届けられますように。
また、縁側でお待ちしていますね。

おかえりなさい。