あのころの私は、暮らしの中で少しずつ何かを失っていきました。
離婚後、子どもたちとの新しい生活が始まり、仕事に就き、毎日をなんとか回していたつもりでした。
けれど心のどこかで、何かが転がりはじめていたのです。
──まるで坂道を下るように。
今回は、そんな日々の始まりを綴ってみたいと思います。
夜の街との決別──トラブルの果てに手放した世界

カレーライスを囲んだあの頃の夕食は、
たしかにあたたかくて、“もう少し頑張ろう”と思える時間でした。
工場の仕事だけでの暮らしは貧しいものでしたが、食卓にはいつも子供たちの笑顔がありました。
夜の街の友達と関わっていた時期に、
ある男性をめぐるトラブルがきっかけで、その友人とは縁を切りました。
「もう、夜の街には戻らない」
そう決めた。
私には、夜の街はもう必要ない。
けれど、借金は残っていました。
親として、生活の柱を立て直さなければ!
しかし、現実は厳しい状況でした。
演じる母親と工場の仕事──見せかけの幸せと心のすきま

社員としてフルタイムで働いていたけれど、給料日は、ため息が出る日でもありました。
いくら残業をしても、休日出勤をしても、たかが知れている。
せめて子供たちだけは、不自由をさせたくない。
借金がある事は絶対に知られたくない…
ある日、息子が
「お母さん、友達の家に遊びに行くと、おばさんがお菓子やジュースを出してくれるんだ。俺も友達が来た時に、お菓子やジュースを出したいから買っておいてね」
「分かった!買っておくね」
冷蔵庫の中はいつも明るく、中身が全て見渡せる。
財布の中身は常に軽かったけれど、生活に困っている様子を見せたくありませんでした。
だから、またクレジットカードに手を出しました。
普通の家庭のように演じるのに必死だったんです。
止まらない借金──クレジットに蝕まれる日常

カードの返済が追いつかなくなったころ、消費者金融の広告が目に入りました。
「誰にもバレずに、即日融資」
その言葉にすがりつき、書類を書きながら、手が震えていたのを今も覚えています。
でも一度クレジットカードに頼ると、生活の歯車が少しずつ狂っていく。
家賃が遅れそうな月も、子どもの学用品も、カードでしのぎました。
気づけば、3枚のカードが上限いっぱいになって。
「リボ払いに切り替えますか?」
その言葉に、助けられた気がして…でもそれは、坂道を転げ落ちる始まりでした。
返済のためにまた借りる──出口の見えない借金ループ

電話が鳴るたび、心臓が跳ねるようになっていきました。
電気代の督促、水道代の滞納通知。
ある日、残業を終え帰宅すると電気が点いていない。
「お母さん、電気が点かないよ。壊れちゃった。」
子供たちは不安そうな目で私を見つめていました。
家中の小銭や1,000円札をかき集め、コンビニに支払いに行きました。
電力会社にすぐ連絡し、明りが灯った時には涙が出ました。
明るかった家庭の空気は確かに変わっていきました。
あの頃の私は、母であるより、ひとりの“逃げる人”だったと思います。
給料日にATMをはしごする日々

給料日。
ローン会社のATMを3件まわって、ようやく返済を終える。
人目が気になり、わざわざ隣の市や、少し遠くの駅前まで足を運びました。
残るのは、わずか10万円。
家賃と光熱費で、すぐに6万円が飛ぶ。
食費、子どものお小遣い……。
自分に使えるお金なんて、ほとんどありません。
固形石けんで顔を洗い、シャンプーは子供と同じもの。
どんなに切り詰めても、給料日前は食材すら厳しかったです。
冷蔵庫の中の野菜を見つめて、
「このにんじん、あと何日もたせようか」
「卵さえあれば何とかなる!」
そんなふうに考える日々が続きました。
返済の督促が会社にもかかるようになると、その職場には居られない。
逃げるように転職、また同じことの繰り返し。
この当時、何度転職したのか、もう覚えていません。
それでも、生活は止められない。
ご飯は作らなきゃいけないし、子どもの進学のことも考えなきゃいけない。
心も、体も、すり減らしながら、それでも前に進むしかありませんでした。
【次回予告】
「母として、もう一度、生活を立て直したい」「男性並みに稼がなければ!」
転職先の溶接工場で知り合った2人の男性との間で揺れる心、本当に好きだったのはどっち?「少しでも楽になりたかった」偽りの心を綴ります。
今日の縁側便り

夕暮れ時の縁側に座って、ふと遠くを見つめたくなる日があります。
あの頃の私は、必死で、苦しくて、でも母として立ち止まれなかった。
あのカレーライスの匂いと、子どもたちの笑顔が、何度も私を引き止めてくれました。
今思えば、もう少し誰かに助けを求めてもよかったのかもしれません。
でも、あの選択の一つ一つが、今の私をつくってくれたのだと思います。
過ぎた日々を悔やむより、今日の夕飯をおいしく食べられる自分でいたい。
あのときの涙も、こうして思い出に綴れる日が来るなんて──
人生には、まだ余白があるようです。
この縁側から、あなたにも、そっとエールを送ります。
温かい飲み物を片手に、ほっとひと息、ついてくださいね。
「ばぁばちゃんの台所カフェ」にお立ち寄りくださってありがとうございます。
このブログが、あなたにとっても心の温まる居場所になれば嬉しいです。
また縁側でお待ちしていますね。

おかえりなさい。