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「いい人」と「好きな人」は違う──再婚と家族、そして私の問い

三人のテルテル坊主親子が、紫陽花の中で雨宿りしている様子。 ばぁばちゃんの人生アルバム

「もう一度、女として幸せを手にしてもいいのだろうか」

「この選択は、子どもたちを本当に幸せにするのだろうか」

前回のエピソードもお読みいただけます。

何度も自分に問いながら、
私はもう一度、家族という形をつくり直そうとしていたのです。

けれど再婚によって、
私と二人の子どもたちだけが育んできた、
かけがえのない「特別な時間」は――

静かになくなっていきました。

ぎこちない食卓

煮込んだカレーの鍋をかき混ぜる様子。

再婚相手は、やさしい人でした。

でも、やさしさだけでは、
子どもたちとの間に、すぐに絆が生まれるわけではありません。

それぞれが戸惑い、気を遣いながら、
見えない距離を抱えて暮らしていました

新しい家族での最初の夕食は、カレーライスを選びました。

母子家庭だった頃、よく作っていた、子どもたちの大好きな味です。

けれども、あれほど温かだった食卓は、
スプーンの音だけが響く静かな時間になりました

私は笑顔で取り繕いながらも、
心の中で「これでよかったのかな…」と
不安をかみしめていました。

新しい家族になれないままの私たち

薄暗い台所。

子どもたちは、新しい環境に馴染もうとしていました。

でも私は、その姿に気づきながらも、
うまく声をかけることができませんでした。

再婚相手もまた、どう接してよいか分からず、
どこか遠慮がちに過ごしていたと思います。

せめて夕食の時間くらい、子どもたちが好きだった料理を…と、
そんな気持ちで食卓を整えていた日々。

でも、料理に反応はなく、
ただ静かにごはんを食べるだけ。

食事が終わると、子どもたちは各自の部屋へ。

その背中を見送りながら、
「寂しいよね、ごめんね。」

胸の奥で、何度も、答えのない問いを繰り返していました。

「家族」って、なんだろう

夕暮れの公園、古びたブランコ。

再婚してからというもの、
私はずっと「家族って、なんだろう」と考えていました。

血のつながりがあっても、
わかり合えないことはある。

逆に、血がつながっていなくても、
時間をかけて育てていける関係も、あるのかもしれない。

私は、完璧なお母さんにはなれなかったし、
再婚相手にとっても、完璧な妻ではなかったかもしれません。

けれど――
「この小さな家族を、大切にしたい」

その問いを胸に抱えたまま過ごす日々が続きました。

洗濯機の前で立ち尽くしていた夜

アパートの裏に夕日が沈む。

再婚して1年ほど経ったある日。
私は洗濯機の前で、夫の衣類を手に、ぼーっと立っていました。

油のしみ、鉄粉のにおい、洗っても取れない黒ずみ。
溶接の仕事は、決してきれいなものではありません。

作業服だけならまだしも、夫の下着や靴下までも別に洗うようになっていました

その衣類を、指先でつまみながら、ふと思ったのです。

もしかして私は――

心のどこかで、彼を「本当の家族」だと思っていないのではないか、と。

そのとき、娘がふと後ろに立っていて、
ぽつりと一言。

「お母さん…もう、無理じゃん」
「本当は、好きじゃないんだよね、あの人のこと」

胸に刺さるような、その言葉に、私は何も言い返せませんでした。

ああ、気づかれていたんだ。
見透かされていたんだ。

母として、妻として、女として。
全部、中途半端なままだった私の姿を。

「いい人」と「好きな人」は違う

雨水が滴る雨傘。

夫は、本当に「いい人」でした。
まじめで、誠実で、子どもたちにも気を遣ってくれる人でした。

でも――「いい人」と「好きな人」は違う

私は、心から彼を愛していたわけではなかった。

それでも再婚したのは、不倫相手のことで深く傷ついた私。

たぶん、自分を救いたかったからです。

そして、もうひとつの理由。
それは、お金でした。

離婚後の生活は苦しく、
どれだけ働いても、生活はギリギリ。

「この人と結婚すれば、少しは楽になるかもしれない」

そんな打算がなかったとは、言えません。

子どもたちのため、と思っていたけれど、
それは、私自身が安心したいだけだったのかもしれません。

家族をつくるということ

明るい日差しの中の親子の影。

この再婚は、私にたくさんのことを教えてくれました。

家族って、ただ一緒に住むだけじゃない。

言葉を交わし、気持ちを交わし、
ときにはぶつかって、また寄り添って、
そうやって少しずつ、育てていくものなんだと思います。

私は、その努力をする前に、
「形」ばかりを整えようとしていた。

そして気づけば、
一番大切にしたかった子どもたちの心が、
遠く離れていってしまったのです。

「失敗だった」と、簡単に片付けることはできません。
あのときの私にとっては、
精一杯の選択だったのだから。

でも、
「大人の都合で、子どもの世界を変えてしまった」
その責任は、母として今も、私の胸に残っています。

【次回予告】自分のココロの偽りが娘にも見透かされてしまって、もうこれ以上主人と一緒に暮らしていく事は無理だと感じました。離婚に至るまでのいきさつを綴ります。

今日の縁側便り

ムラサキカタバミ

庭で懐かしいピンク色の花を見つけました。

昔、娘が摘んできた、このピンク色の小さな花束を、
食卓のコップに飾ったことを思い出します。

娘のまなざしがまぶしかったあの瞬間。

心の奥に、今も風が吹くように残っています。

きっと誰の人生にも、「あのときこうしていれば」と思う瞬間がある。

でもその時々の「精一杯」が、前に進ませてくれるのだと、今は思えるのです。

どんなに時が流れても、
あの日の空気や匂い、光や影は、
ふとした拍子に、心の縁側から顔をのぞかせます。

今日は、娘と久しぶりに会う予定です。

麦茶とわらび餅

連日夏日が続いています。

本当に入梅?と思ってしまうほど厳しい暑さですね。

どうぞ、冷たい麦茶と、ほんの少しの甘いものを。

くれぐれも無理せず、体も心もゆっくり休めてくださいね。

それではまた、
ばぁばちゃんの縁側カフェで、お待ちしていますね。

おかえりなさい。

「ばぁばちゃんの台所カフェ」は千聖の隠れ家メルマガとの出会いから始まりました。よかったらのぞいてみてくださいね。

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