サ高住宅で働く私の「ありがとう」の話

サービス付き高齢者住宅に勤めて、もうしばらく経ちます。
介護が必要な方もいらっしゃいますが、想像以上にお元気な高齢者様も多くて、日々こちらが驚かされるばかりです。
『ピューマ』Tシャツに込められた、お爺ちゃんの優しさ
先日いただいたのは、なんとTシャツ。
くださったのは、物静かでやさしいお爺ちゃんです。
どう見ても新品ではなく、ちょっとくたっとしている感じ。
ちょっぴり照れくさそうな顔で、
「これはわしには大きすぎるから、あんたにちょうどいいと思って取っておいたよ」と渡してくださいました。

そして小声で
「このマーク、ピューマっていうんだ!本物か偽物か分からんけど」と。
私は心の中で「これはプーマですよ……」と思いながら、
笑顔で「ありがとうございます」と受け取りました。
でも申し訳ないのですが、私は人が一度でも袖を通した服は着られない性分で……
変なところだけ潔癖で、どうしても無理なのです。
いただいたものの、タンスの奥にそっとしまっています。
きっとこの気持ち、同じタイプの方にはわかっていただけるでしょうか(笑)。
元気の秘訣は毎日の掃除!?97歳のご利用者さん
最高齢は97歳の女性。
認知症の症状もほとんどなく、記憶もしっかり。
お部屋にうかがうと、整理整頓は行き届き、床までピカピカです。
「私の仕事なくなっちゃうわ」と思わず苦笑してしまうほど、毎日きちんと掃除されているのです。

トイレまで本当に真っ白で、こちらが恥ずかしくなるほど。
思わず「我が家のトイレも見習わなきゃ」と心のなかでつぶやくこともしばしばです。
「ありがとう」の形はさまざま
ありがたいことに、利用者様から「ありがとう」の気持ちをいただくことが多いのです。
規則上、贈り物はNG。
会社の方針としては
「お気持ちだけいただいてください」ということになっています。
ところが現実には……
「内緒にしてね。見つかると怒られちゃうから」と言いつつ、受け取っている職員も多いのだとか。
最初は私も遠慮していましたが、そういう話を聞くうちに、
「それなら私も……」と、
最近ではありがたく頂戴するようになりました。
ペットボトルのお茶やジュース、ちょっとしたお菓子。
「見つからないようにね」とポケットに入れてくださるのです(汗)。

掃除が終わったあとに「一緒にプリン食べましょう」と笑顔で出してくださる方。
なかには「100gで千円するお茶だよ、飲んで」と値段まで教えてくださる方もいます。
こちらは「そんな高価なお茶、いただいてよいのかしら」と、むしろ戸惑うほどです。
退室時には、エプロンのポケットがパンパンになってしまいます。
熱帯魚柄の靴下と、次なる股引
そんななか、
先日は80代のおばあちゃんから、新品の靴下を二足いただきました。
小さな熱帯魚がたくさんプリントされていて、見ているだけで水族館気分。
でも正直に言うと、私は無地の靴下しか履かないタイプなので、趣味にはちょっと合いません(笑)。
それでも、にこにこしながら手渡されると、断り切れないのが人情というもので。

「まあ、ありがとうございます」と受け取りながら、
心の中で「これは履く機会ないかも…」とつぶやいています。
そのおばあちゃん、
次は股引を下さるとお話されていました。
しかもそれは、
先日、息子さんのお嫁さんが差し入れてくれたものらしく…
「他の人に見つからないように、あんたに渡すタイミングが難しくてね」と真剣に悩んでいるご様子(汗)。
さて、どんな柄の股引がやってくるのかしら……
ちょっと怖いような、楽しみなような、複雑な気持ちです(笑)。
物よりうれしいもの
とはいえ、いただく物が何であれ、そこに込められたお気持ちは変わりません。
ペットボトルのお茶も、プリンも、
高価なお茶っ葉も、そしてくたっとしたプーマのTシャツも――
どれも「ありがとう」の心がぎゅっと詰まっています。
物そのものより、気にかけてくださること、
「あなたが好きだから」
「日々助かっているから」と
思ってくださることが、何よりもうれしいのです。
お部屋を訪問したときの笑顔や、
「ありがとう!ご苦労さまね」とかけてくださる声。
そのひと言ひと言が、毎日の励みになっています。
“もらう”ことのむずかしさとやさしさ

介護や支援のお仕事では、
「利用者様からものをもらってはいけません」という決まりがあります。
それは確かに大切なこと。
けれど、目の前のその方が、
自分なりに考えてくださった小さな差し入れや贈り物を、
「いりません」と突っぱねるのもまた、胸が痛むものです。
いただいたその瞬間に、
笑顔が広がり、距離が近くなることも多々あります。
「ありがとう」の気持ちを交わすのは、
どちらか一方だけでなく、双方にとって喜びなのかもしれませんね。
今日の縁側便り

利用者様からいただいた“お心づかい”は、どれも小さな贈り物。
形は違っても、気持ちは同じ。
その優しさに包まれるたび、私はこの仕事をしていてよかったなあとしみじみ思います。
プリンの甘さも、くたっとしたTシャツの感触も、
本当は全部「あなたにありがとう」と伝えたい気持ちのあらわれ。
だから私も「こちらこそありがとうね」の毎日なのです。
いつも、お話を聞いてくださりありがとうございます。
心の中のお店を、ばぁばちゃんはいつも、そっと開けています。
それではまた――お茶をいれて、お待ちしております。
私は今、好きな事を仕事にする生き方を、未来型*夢の降る道で学んでいます。
大人のための寺子屋みたいなイメージです。
この場所では、山籠もり仙人と呼ばれる、おもしろくて個性豊かな竹川さんと、
私の暗く閉ざされた心を、少しづつ丁寧にほぐしてくださった千聖さんに出会う事ができます。
あなたもコッソリのぞいてみませんか?
