認知症患者の【色へのこだわり】言葉の奥底に隠された想い
79才の「すゑ」さん
- 要介護1
- 桃色に強い執着がある
- 口癖「私の事なんて誰も見てくれる人はいない」
彼女の日課は塗り絵です。
桃色は塗り絵だけにとどまらず
衣類も桃色を好んで着ています。
この服もうボロボロ・・・でも好きなの
桃色の上着の1枚は
生地が透けて穴が開いています。
もう1枚は
袖口がすれてボロボロなんです。
先日、黄色のブラウスを
娘さんが届けてくれたのですが
着たのはたった一度だけ・・・
タンスの奥にしまい込み
それ以来着ようとはしません。
認知症の方の色へのこだわりは、
一見すると不思議な現象に思えますが、
脳の機能の変化と深く関連していると
言われています。
認知症患者の心の特徴
不安と孤独
記憶が曖昧になり、周囲の人や場所がわからなくなることで、
強い不安や孤独感を感じることがあります。
喪失感
これまで当たり前に行っていたことができなくなり、
自分自身の価値を感じられなくなることで、
大きな喪失感に襲われることがあります。
怒りやいら立ち
自分の気持ちをうまく伝えられず、
周囲の人の言動にいら立ちを感じたり、
怒りを爆発させてしまうことがあります。
羞恥心
自分でもコントロールできない言動をしてしまい、
周囲に迷惑をかけているという罪悪感や
恥ずかしさを感じることがあります。
尊厳の喪失
介護が必要になり、
自立した生活を送ることができなくなることで、
尊厳を傷つけられたように感じることもあります。
認知症の方の色への感情の結びつき
個人差があり、一概にこうとは言えませんが
3つの結びつきが考えられます。
過去の経験や記憶との結びつき
【9月の塗り絵】お月見
すゑさんは、少女の髪から塗り始めました。
花瓶や「三方(さんぼう)」の模様も
丁寧に描いています。
職員が美容院に行った際
一番最初に気がつくのがすゑさんです。
入所前のすゑさんは
髪を明るい色に染め、
友達からも
「すゑさんは、髪の色が素敵だね!」
と、褒められていたそうです。
ニコニコしながら
その話を何度も繰り返します。
今でも髪色には、とても敏感で
表情や動作、声のトーンなどから
自分の個性を表現したい気持ちが
よく分かります。
今現在は、ご家族の意向もあり
染めていません。
また、他の利用者様が
桃色の服を着ていると
「いらなくなったら私にちょうだいね!」と
必ず声をかけています。
「キレイな桃色の服がほしい」と
いつも願っているのです。
色は五感と密接に結びついている
【10月の塗り絵】村祭り
左から2番目の少女がすゑさんのようです。
小さな漁師町の生まれで、二人姉弟。
お祭りが大好きな子供でした。
右から2番目が
弟さんのようです。
「弟は今どうしているのかな?」と
遠い目で、心配そうに話します。
自分以外の子供たちには
緑色がよく使われています。
緑色は自然を連想させる色ですが、
緑色に強い感情を持っているのでしょうか。
すゑさんは、自身の故郷のような
自然に囲まれて、穏やかに過ごしたい
という願望を持っているのかもしれません。
象徴的な意味
色には文化や社会の中で
様々な象徴的な意味があります。
介護現場も例のひとつですが
黒色の服はNGです。
黒色は、利用者の方やご家族に
「死」を連想させてしまい、
不安や悲しみを感じさせてしまう
可能性があるからです。
介護は、温かくて優しいケア
清潔感が求められる仕事ですから
黒はイメージがあわないです。
また、結婚式で花嫁さんが
白いドレスを着るのは、
この象徴的な意味からきていますね。
考えられる心の声
認知症の方が毎日同じ色の服を着る
という行動の裏には、
様々な心の声が隠されている
可能性があります。
残念ながら、その心の声を
正確に知ることは難しいです。
認知症の特性や
色彩心理学などを参考に、
いくつかの可能性が考えられます。
- 安心感を求めている
- 過去の記憶と結びついている
- 感覚的な心地よさ
- 単純化したい
- コミュニケーションの手段
✅毎日同じ色の服を着ることで、
心を落ち着かせているのではないか。
✅過去の楽しい思い出や、
大切な人とのつながりを感る色が着たい。
✅桃色を着ることで幸福感を感じている。
✅桃色の服の着心地が良い。
✅服を選ぶことが負担になっている。
(服を選べない)
✅服の色を通して自分の気持ちを伝えようとしている。
色彩心理学では、色によって様々な心理的な効果が生まれると考えられています。
- 暖色系: 赤色、橙色、黄色などは、興奮、活発、暖かさなどを連想させ、食欲を刺激したり、行動を促したりする効果があると言われています。
- 寒色系: 青色、緑色、紫色などは、冷静、沈着、安らぎなどを連想させ、リラックス効果や鎮静効果があると言われています。
- 中間色: 緑色などは、自然や生命を象徴し、安定感や調和をもたらす効果があると言われています。
認知症の方への影響:介護における注意点
認知症の方が
毎日同じ色の服を着るという行動は、
単なるこだわりではなく
その人なりの心の表現である可能性があります。
できる限り、本人の気持ちを尊重し
無理強いしないように心がけています。
同じ色の服や似たような色の服を
いくつか用意したりすることで、
本人に選択肢を与えることも良い方法です。
すゑさんは、好きな音楽を聴いたり
一緒に歌ったりすると
とてもリラックスした表情になります。
完成した塗り絵を壁に飾り
他の利用者様に見てもらえることが
とても嬉しいようです。
同じ色の服を着るという行為は
介護現場でよく耳にする話ですが
必ずしも心の問題を
示しているわけではありません。
注意点として、個々の状況は異なりますので、
どうしても理解できない場合は、
専門家に相談してみると良いと思います。
認知症と色彩心理学に関する参考サイト
認知症と色彩心理学について、
より深く知りたいという方に
おすすめのサイトをいくつかご紹介します。
これらのサイトでは、
色彩が認知症の方の行動や感情に与える影響、
そして介護現場での
色彩活用のヒントなどを
学ぶことができます。
専門的な情報源
レバウェル介護: 介護業界に特化した情報サイトです。
色彩心理学の基礎知識から、介護現場での具体的な事例まで、幅広い情報が掲載されています。
株式会社ダスキン: 認知症ケアに特化した色彩プログラム「色彩組色ドリル」を開発した企業です。
プログラムの詳細や、色彩がもたらす効果について詳しく解説されています。
学術的な情報源
J-STAGE: 日本の学術論文を検索できるデータベースです。
「認知症」と「色彩」といったキーワードで検索すると、関連する論文が見つかることがあります。
その他
一般社団法人認知症の人と家族の会: 認知症に関する様々な情報を提供している団体です。
色彩に関する情報は直接的なものは少ないかもしれませんが、認知症の方の生活環境を整えるためのヒントが得られるかもしれません。
高齢者になると「見やすい色」が変わる
高齢者になると
老化や病気が原因で
目が見えにくくなったり
色の識別が難しくなります。
見えにくい色 | 見やすい色 |
青・黄・灰 | 赤・オレンジ・緑 |
桃色・水色・黄緑などの
明るくてハッキリした色も見やすく
高齢者の方が好む傾向にあるようです。
まとめ
認知症の方の心の奥底には、
様々な感情や想いが隠されています。
認知症の方の心の状態を理解し
寄り添うことで、
より良いケアを提供することができます。
すゑさんは毎朝、窓辺に座り
真っ先に桃色の色えんぴつを手に取ります。
色えんぴつを持った瞬間
パッとお顔が華やぐんです。
桃色は若返りや幸福をイメージする
「気持ちが明るくなる色」
すゑさんは塗り絵の中で
若い日々を
取り戻しているのかもしれませんね。
この情報が、認知症の方のケアに
お役立ていただければ幸いです。
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