私の選択
私は、ようやく「自分の人生」を歩み始めようとしていた。
OL三年目、彼との結婚を決めた。
初めて心の底から笑い合える人だった。
でも、両親は猛反対した。
「時間にルーズな人は信用できない」
待ち合わせに遅れてくる彼を見て、父は眉をひそめた。
「そんなところで長男の嫁として苦労するに決まっている」
彼の実家が山奥だと知ると、母は泣いた。
私は早く家を出たい気持ちもあった。
でも、両親に背を向けたわけではない。
特に尊敬する父を悲しませたくなかった。
それでも、父は怒鳴った。
「お前は何も分かっていない!」
胸が張り裂けそうだった。
彼は両親の望むような安定した職業に就いていなかった。
それでも、私は彼を信じた。
この人となら、どんな困難も乗り越えられると。
──まさか、この選択が私の人生を大きく変えるとは思いもしなかった。
結婚と現実

結婚後、私は舅の酒癖に悩んだ。
普段は温厚なのに、酒が入ると人が変わる。
夫が中学生の頃、舅は酒席で大暴れし、迎えに行った夫を突き飛ばし暴言を吐いたという。
夫の心の傷は深く、父と酒を憎むようになった。
新婚当初、私は胞状奇胎で流産した。
子供は半ば諦めていた。
でも、三年後、奇跡的に息子を授かった。
両親も義両親も初孫の誕生に大喜び。
特に母は産後の私を献身的に支えてくれた。
両親との関係も修復し、ようやく結婚を認めてくれたようだった。
だが、夫の仕事は続かず、生活は苦しかった。
借金と涙

私は、ついに借金をした。
最初はたった二万円。
でも、気づけば雪だるま式に膨らみ、五十万円に。
そんなある日、母から電話があった。
「ちゃんと食べてる?」
声を聞いたとたん、ポロポロ涙がこぼれた。
父は言った。
「お金が無いのは、眉毛が無いよりつらいぞ」
両親は夫に内緒で借金を返済してくれた。
感謝と同時に、情けなさと罪悪感でいっぱいになった。
もう、信用してもらえないと思った。
夫の正義感

夫は正義感が強く、曲がったことが許せない人だった。
上司にも社長にも、おかしいことは口に出す。
だから、会社では浮いていた。
転職を繰り返す夫に、私は言った。
「生活のため、子供のために我慢して」
でも、夫は聞く耳を持たなかった。
「俺が嫌な場所で働かせるつもりか?」
夫婦の価値観は、少しずつ、でも確実にずれていった。

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