土肥温泉で始まった仲居生活は、それはそれは厳しいものでした。
けれど、不思議なものでお休みの日になると、じっとしていられないんです。
どこかに出かけたくて、うずうずしてしまうのです。
伊豆半島は、どの道を走っても観光地。
車の窓を開ければ、潮の香りや山の緑がふっと心に飛び込んできます。
「ここは本当に仕事で来ているのかしら?」と、
思わず錯覚してしまうほど。
自然も人々の暮らしもどこか懐かしく、心がほどけていきました。
そんなある日、伊豆高原駅での出来事。
そこで出会った一人の男性が、のちの私の人生に大きな影響を与えていくのです。
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無事に仲居さんデビュー

制服は二部式の着物。
初心者でも着やすい“なんちゃって着物”でしたが、初めて袖を通した日は胸がいっぱいで、思わず鏡の前でくるりと回ってしまったほど嬉しかったのを覚えています。
仲居頭のお姉さんは、本式の着物をさっと着こなし、立ち姿も凛としていて。
「いいなぁ、あんなふうになれたら」と、少しだけ憧れを抱いていました。
この時の私は、なんと56歳の新人仲居。
すべてが新鮮で、心の中ではちょっぴり若返ったような気分でした。
やがて食事処だけでなく、特別室のお部屋出しまで任されるようになり、少しずつ余裕も生まれてきました。
伊豆半島はどこを走っても美しい
休日はもっぱらドライブ。

修善寺の竹林の小径や、大室山の美しい景色…。
どこを走っても絵のように美しく、心が癒されていきました。

食べ物もまた楽しみのひとつ。
旅館の板前さんにすすめられていただいた「トビウオのお刺身」は、人生で初めての味わいでした。
そして驚いたのは、生のわさびが普通にスーパーに並んでいること!
しかも、とってもお手頃なお値段。

寮に持ち帰って、すりおろしたてを熱々のご飯にのせて「わさび丼」。
これが何よりのごちそうで、小さな幸せでした。
でも一番の贅沢は、土肥の海に沈む夕日を独り占めできたこと。

寮から海まで徒歩10秒。
温泉にも入りたい放題。
お給料は少なかったけれど、心は満ち足りていました。
伊豆高原駅での出会い

そんなある休日、伊豆高原駅をぶらりと歩いていると、一人の男性から声をかけられました。
「すみません、地元の方ですか?」
振り返ると、ジャケットをきちんと着こなした、髭のよく似合うダンディな方。
観光客かな?と思いながら、
「いえ、伊豆に来てまだ半年なんですよ」と答えました。
話を聞けば、その方はベルギーで日本料理店を営んでいたけれど廃業し、知り合いを頼って伊豆に来られたとのこと。
「ベルギーから伊豆へ?本当かしら」と半信半疑でしたが、気づけば駅のカフェで一緒にお茶をしていました。
男性にお茶に誘われるなんて、もう何年ぶりでしょう。
心臓がドキドキして、手の震えがしばらく止まらなかったほどです。
物腰も柔らかく、誠実そうで清潔感もあって、初めて会ったとは思えない親しみやすさがありました。
そして帰り際には連絡先を交換していました。
彼は何者?
彼は、伊東市にある隠れ家宿で板前として働いているとのこと。

お互いバツイチで、同じ宿泊業の仕事をしていることもあって話題は尽きませんでした。
子どもや孫のこと、音楽や料理のこと…。
まるで旧知の友人のように語り合いました。
やがて、この出会いが私を思いもよらない“介護士”への道へと導いていくのです。
56歳で仲居として新しい一歩を踏み出したこの経験は、シニア世代の私に「まだまだ挑戦できる」という勇気をくれました。
これからの働き方を模索している方にとっても、ささやかなヒントになれば嬉しく思います。
【次回予告】伊豆で出会った彼との交流が、どのようにして新しい仕事のきっかけとなっていったのか──。
次回はその続きのお話をしたいと思います。
今日の縁側便り

今日はお刺身に山芋をすりおろして、山かけ丼を作りました。
残念ながらこちらのスーパーには生わさびは置いていなくて。
伊豆の暮らしを思い出しながら
「やっぱり伊豆は特別な土地だったなぁ」と胸がきゅんとしました。
ツーンと香る本わさびの味わいを、もう一度確かめに──また伊豆を訪れたい気持ちになっています。
いつも、お話を聞いてくださりありがとうございます。
心の中のお店を、ばぁばちゃんはいつも、そっと開けています。
それではまた――お茶をいれて、お待ちしております。

おかえりなさい。
「ばぁばちゃんの台所カフェ」より
私は今、好きな事を仕事にする生き方を、未来型*夢の降る道で学んでいます。
大人のための寺子屋みたいなイメージです。
この場所では、山籠もり仙人と呼ばれる、おもしろくて個性豊かな竹川さんと、
私の暗く閉ざされた心を、少しづつ丁寧にほぐしてくださった千聖さんに出会う事ができます。
あなたもコッソリのぞいてみませんか?

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