仲居を辞め、彼の力になりたくて大学病院で看護助手になりました。
けれど、慣れない病院勤務に心も体もクタクタ。
彼のために転職したのに、会える時間は減り、不安ばかりが募っていきます。
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命をあずかる、厳しい現場

「出典:写真AC」
彼と会えないまま、忙しい毎日が続きました。
最初の配属先は、がん患者さんや婦人科系の患者さんが多い病棟。
「こんなに多くのがん患者さんがいるなんて…」と、驚きを隠せませんでした。
未経験でも容赦ない日々
「丁寧に教えてもらえる」と聞いていたのに、現実は違いました。
研修もそこそこに、いきなり現場に放り込まれ、毎日あたふた。
先輩の看護助手も自分の仕事で手いっぱいです。
若い看護師さんたちから、次々と指示が飛んできます。
- 「○○さんを車いすでレントゲンに連れてって」
- 「次は○○さんをCTにお願いね」
- 「○○さんが痛がってるから、さすってきて!」
かわいらしい顔をして、人使いはなかなか荒い…。
新人をフォローする余裕は誰にもなく、ホッとする暇もありません。
- 「急ぎの薬ができたから、早く取りに行ってきて」
- 「次はMRIよ。金属は全部外してからじゃないとダメだからね」
医療現場の厳しさを、改めて思い知らされました。
病院内は迷路のよう。
検査に患者さんを連れて行くにも、地図を持たされて右往左往です。
未経験でも、プロ並みの仕事を求められる毎日でした。
- 車いす移乗
- おむつ替え
- 口腔ケア
古株の看護助手の中には、意地悪な人もいて、横柄な態度やきつい言葉にビクビクすることもありました。
「あなたにだって一年生だった時があったでしょうに」と、心の中で何度も叫びながら…。
命をあずかる現場だからこそ仕方がない、と分かっていても、心はいつも疲れ果てていました。
朝の回診、病棟をぞろぞろ歩くドクターたちは、まるで大名行列。
「あんなに威張って歩かなくても…」と、ため息をつくこともありました。
仲居で鍛えた足が役に立つ

「出典:写真AC」
病院にはエレベーターの優先順位があり、「エレベーターを待つ時間がもったいない、階段で行って!」と注意されることもしばしば。
何度も階段を上り下りする毎日でしたが、その時ばかりは仲居時代の経験が役に立ちました。
草履を履いて重いお膳を運んでいた日々のおかげで、脚力には自信があります。
「へこたれるもんか!」
そう自分に言い聞かせ、必死に仕事をこなしました。
この過酷な環境が、私を次の道へ導いてくれることになるとは、その時はまだ知りませんでした。
憧れの介護士さん

「出典:写真AC」
そんなピリピリした職場で、いつも笑顔で優しく患者さんに接する介護士さんがいました。
入浴介助、口腔ケア、排泄介助、患者さんとのお話まで、一人で何でもこなすその姿。
看護師や患者さんからも信頼される人柄でした。
新人だった私にも嫌な顔ひとつせず親切に教えてくれて、その姿に私は憧れました。
「私もこんな人になりたい。介護の仕事を覚えたい!」
その思いが、どんどん膨らんでいきました。
そしてついに、介護資格を取ることを決意したのです。
介護資格への挑戦

「出典:写真AC」
当時住んでいた伊豆の国市は、温泉街が多い場所。
観光には恵まれていますが、介護を勉強できる場所が近くにありませんでした。
それでも休日を返上して、遠くの街まで介護講座に通います。
彼に会う機会は激減し、寂しさや不安と戦う3か月間。
「あと少し頑張れば資格が取れる!」と自分を励まし、ついに晴れて介護資格を取得しました。
私が頑張る姿を、彼は応援してくれていました。
けれど、頑張れば頑張るほど、彼の態度が素っ気なく感じられるようになっていきます。
なぜ?寂しい。会いたい。
ただ彼の喜ぶ顔が見たいだけ、力になりたいだけなのに…。
その間、彼の体調は一進一退を繰り返していました。
板前の仕事は続けていましたが、手術のたびに長期休暇を取ることに。
やがて勤めていた宿に居づらくなり、退職してしまったのです。
心機一転、彼は熱海へ

「出典:写真AC」
そんな中、彼は仕事場を伊東市から熱海市に移しました。
板前仲間が、彼の体調を理解してくれる職場を見つけてくれたのです。
ありがたい仲間の支援に、感謝しかありませんでした。
心機一転、熱海の海沿いにあるホテルのライブキッチンで、自慢の腕を振るう彼。

「出典:写真AC」
生活もだんだん落ち着いていきました。
お客様の目の前でステーキを焼く彼は、とても生き生きとしています。
休日には、以前のようにカラオケや食事、近場のドライブを楽しめるまで回復。
彼の娘さんにも私を紹介してくれました。
「お父さんに彼女ができたなんて信じられない。あの人は普通の人じゃないから…。
お世話かけますが、これからもよろしくお願いします」
娘さんのこの言葉に、私は有頂天でした。
平和な日常を取り戻したかのように、彼の体も元気を取り戻したかのように見えたのです。
次回は、彼の本心を知り、私の思い上がりが招いた結末について綴っていきます。
今日の縁側便り

台風が直撃した昨日、職場の駐車場があっという間に冠水。
側溝のフタが浮いてしまい、車も一時避難しました。
まるで川のように流れる雨水を見ながら、自然の力の大きさを思い知らされた台風15号。
県内の牧之原市でも突風による被害がでました。
あなたの地域は大丈夫でしたか?
どうぞ無理をせず、安全第一でお過ごしくださいね。
いつも、お話を聞いてくださりありがとうございます。
心の中のお店を、ばぁばちゃんはいつも、そっと開けています。
それではまた――お茶をいれて、お待ちしております。

おかえりなさい。
「ばぁばちゃんの台所カフェ」より
私は今、好きな事を仕事にする生き方を、未来型*夢の降る道で学んでいます。
大人のための寺子屋みたいなイメージです。
この場所では、山籠もり仙人と呼ばれる、おもしろくて個性豊かな竹川さんと、
私の暗く閉ざされた心を、少しづつ丁寧にほぐしてくださった千聖さんに出会う事ができます。
あなたもコッソリのぞいてみませんか?

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