前回の「引っ越し第5号」のお話はこちらからどうぞ👇
「団地で起きた“あの事件”とは…?」
あの「ゴキブリ事件」がきっかけで、
私たちは団地を出る決心をしました。
慌ただしく荷物をまとめるなか、
体の変化に気づいたのです。
「え?まさか……私、妊娠してる?」
驚きと不安を抱えて病院へ行くと、
本当に、小さな命が宿っていました。
不安はある。だけど、
お腹のなかの小さな命が、
私に不思議な力をくれました。
こうして私は「引っ越し第5号」として、
主人の実家へと戻ることになりました。
年子の子育てと、止まらない転職

山あいにある主人の実家は、空気もよく、のどかで。
「ここでまた、がんばろう」と思いました。
間もなく、長男が誕生。
それからすぐ、次の生理を待たずして、長女を授かりました。
年子のふたりを育てる毎日。
洗濯、授乳、おむつ替え…まるでエンドレスのループ。
育児は、まさにてんてこまい…
一日があっという間に過ぎていきます。

裏山に日が落ちるころになると、小さな子どもたちがぐずり始め、
私は「かーらーす、なぜ鳴くの」と子守唄を歌いながら、
子どもと一緒に泣いた日もありました。
……あの日の自分を、いまでも忘れません。
「ここで、頑張るしかない」
そう覚悟を決めてはいたのですが、現実はなかなか厳しいものでした。
主人は結婚当初、大手企業に勤めていました。
収入も安定していて、将来への不安などなかったのに──
その仕事を辞めてからというもの、転職を繰り返す日々。
最短で3日、長くても3ヵ月と長続きません。
そのたびに生活は苦しくなり、
買い物のたびに財布の中を何度も見てはため息。
「この先、どうなるんだろう」──そんな不安が、日に日に募っていきました。
育児真っ只中のわたしでしたが
働かなくては、暮らしていけない状況に追い込まれていったのです。
山の中で、働く場所がない
子どもはまだ小さく、お金も心細い。
「このままじゃダメだ」
そう思った私は、働く決意をします。
けれど、現実はそう簡単ではありませんでした。
主人の実家は山あいの集落。
「私が働くしかない」と思い立ったものの、
保育所どころか、仕事先もほとんどありません。
「働きたいのに、働けない」
このもどかしさが、
胸の奥に静かに積もっていきました。
「もう限界かもしれない」
そう思い始めた私は、主人に言いました。
「町の中に引っ越そうよ」
何度も話し合い、押し問答が続きました。
若さもあったのでしょう。
わたしは少し強引に、ときに涙を流しながら、
町の中にある雇用促進住宅への引っ越しを提案し、説得しました。
何度も何度も話し合いを重ね、
喧嘩になりながらも、
ようやく主人も納得してくれました。
雇用促進住宅へ、引っ越し第6号

こうして決まった「引っ越し第6号」。
新しい住まいは、町の中にある雇用促進住宅。
ここから、私たち家族の新しい生活がまた始まったのです──。
保育所もスーパーも、徒歩圏内。
最低限の設備ですが、お家賃が安く、真っ白の壁がとても新鮮でした。
お金はなかったけれど、
嫁入り道具(タンスや布団、食器棚)一式を運び込み、
小さな新生活が始まりました。
2人の子供を保育所に預け、飲食店のウエイトレスとして働き始めました。

保育所の縁側で、「かあかん、かあかん」と泣き叫ぶ
幼き日の息子の声は、今でも耳に残っています。
後ろ髪を引かれる思いで職場へと向かう日々。
4時間のアルバイトです。
明細に並ぶ数字は、たった5桁。7万円ほどでした。
それでも私には、その数字が嬉しくて、しばらく見つめてしまいました。
数行の数字に、これまでの日々が思い出され──気づけば、目が潤んでいました。
住まいも、暮らしも、人間関係も。
変えるには、たくさんの勇気がいります。
不安を抱えながらも、
それでも私は一歩、踏み出すしかなかった。
あの頃の自分に言ってあげたい。
「よくがんばったね」って。
泣いてばかりだった子供たちも、
先生たちのご協力のおかげで、
楽しい生活を送れるようになっていきました。
でも、町に出ればすべてが解決する──そう思っていたのに、現実はまた違う形で私たちを試してきたのです。
(つづく)
今日の縁側便り
あなたも、今いる場所に悩んでいるのなら、
ほんの少しの勇気を出してみてください。
小さな一歩でも、
きっと未来を変える力になります。

庭の紫陽花が見ごろを迎えています。
来週には梅雨入りの予報。空の色も、なんだか思案する顔つきです。
晴れ間のうちにと庭の草取りをしていたら、雨蛙がぴょん。
季節は、ほんとうによく知っていますね。

洗濯物の干し方にひと工夫、食材の保存方法も見直して——
小さな知恵を働かせる梅雨の暮らし。
湿気と上手につきあいながら、心はカラッと晴れやかに過ごせますように。
【次回予告】
雇用促進住宅で新しい生活を始めた矢先──主人は又転職を。
今回の転職はいつもと違う働き方でした。
これからも少しずつ、「引っ越し19回の物語」を、回想しながら綴っていきたいと思います。
「ばぁばちゃんの台所カフェ」にお立ち寄りくださってありがとうございます。
このブログが、あなたにとっても心の温まる居場所になれば嬉しいです。
また縁側でお待ちしていますね。

おかえりなさい。