今年の夏は、なんとも厳しい暑さが続いていますね。
テレビでは、
「水田が干上がりそうです」
「新米の収穫が心配です」
そんな不安になるニュースばかり。
ごはんを大切に食べてきた私には、なんだか胸がざわつく毎日でした。
そんなある日、「涼を感じたい」と思い立ち、
愛知県新城市の山あいにある《四谷の千枚田》を訪ねてみました。
棚田といえば、石川県や新潟が有名ですが、
この地にも、美しく手入れされた田んぼが連なる、知られざる名所があるのです。
涼やかな水音、命を育む田んぼの風景。
そして、その帰りにふらりと立ち寄った小さな古民家カフェ「たてば」で、
思いがけず、ずっと心に残っていた“あの味”に出会ったのです。
命の水音が聞こえる――四谷の千枚田
心にしみ入る、棚田の風景
駐車場の目の前に広がるのは、見渡すかぎりの田園風景。

整備された道を下っていくと、水田がすぐ近くに現れます。
今年のような酷暑の中でも、ここにはちゃんと水がある──。
新城市四谷の千枚田を守る、豊かな水の動画。
谷あいの斜面に、何百枚もの田んぼが段々と並び、ひとつひとつに涼やかな水がさらさらと流れ込んでいます。
稲も生き生きとして、みずみずしい。
どうしてこんなに暑いのに、こんなに潤っているんだろう?
その秘密を、少しだけ紐解いてみました。
枯渇しない理由──自然の恵みと人の手

四谷の千枚田の水源は、標高883メートルの鞍掛山。
そこから湧き出る水は、棚田の上から順に流れるように設計されていて、自然の地形と人の工夫が見事に調和しています。
特筆すべきは、その水が大雨でも濁らないということ。

さらに、地元の方々がていねいに管理し、すべての田んぼに均等に水が行き渡るよう工夫されているのです。
水を「奪い合う」のではなく、「分け合う」仕組み。
そんな心が、この風景にも表れているようで、胸が熱くなりました。

高低差200メートルに現在20戸ほどの農家の方々が田を耕しており、『日本の棚田百選』にも選定されています。
「命を育む」ということ
今、食卓に並ぶお米が、どれだけの手間と水と時間をかけて育てられているのか──
四谷の千枚田で、そのひと粒ひと粒の尊さを改めて実感しました。
枯れず、濁らず、音をたてながら流れる水。
そして、力強く育つ稲穂たち。
「人の手が自然と寄り添う」そんな暮らしが、今もここにあることに、深く感動した棚田でした。
四谷の千枚田アクセス情報
「よう来たのん!」──東三河の方言で「よく来たねぇ!」
地元の人たちの温かさが伝わってくる看板が、駐車場の目印です。

古民家カフェ『たてば』――おむすびと鬼百合のカップ
古民家カフェ「たてば」でほっと一息

棚田を歩いたあと、目に留まったのは
道路脇の小さな看板でした。
その文字に引き寄せられるように、車を進めてみると、
道から少し奥まった場所に、こじんまりとした古民家が静かに佇んでいます。
≪古民家カフェ たてば≫

のれんをくぐると、そこには田舎のおばあちゃん家に遊びに来たような、なつかしい空間が広がっていました。
手づくりの温もりが迎えてくれる空間


窓際の席には、あかるい日差しと緑の風。
天然のエアコンですね~
川風が涼を運んでいます。

棚には、手づくりジャムや雑貨が並び、ほっと心が緩みます。
メニューに並ぶのは、体にやさしいごはんと手づくりスイーツ。
どれも、どこか「ていねいに生きる」という言葉を思い出させてくれる品々でした。
あの味に、また出会えた
この日いただいたのは、「おむすびと汁もののセット」。

お手製の漬物と、ふ入りのお味噌汁、季節のブルーベリー。
シンプルなのに、どれもちゃんとおいしい。
素朴で、やさしい味がじわ~っと心にしみるんです。

…そのおむすびの味に、私はふと、記憶の中の“あの味”を思い出しました。
──私が高校生だったころ、父が握ってくれたまん丸「おにぎり」
不自由な手で、一生懸命握ってくれた父の顔がふいに浮かんできたのです。
あのときの気持ち。
あのときの、ささやかだけど確かな父のぬくもり。
あれは、まさに「たてば」のおむすびの味でした。
鬼百合のカップに注がれた、和紅茶の余韻

食後には、和紅茶をいただきました。
紅茶なのに、ほのかにコーヒーのような香ばしさがあって、とっても飲みやすくて美味しい。
そして何より驚いたのが、カップの模様。
なんと、鬼百合が描かれていたんです。

懐かしさと嬉しさで、思わずカップを両手で包んで見入ってしまいました。

最近は、あまり見かけなくなった「鬼百合」。
私が子どもの頃は、よく道端や畦道に咲いていたものです。
食事も、器も、風景も──すべてがやさしさで包まれていた、そんな一日でした。
古民家カフェ「たてば」アクセス情報

古民家カフェ「たてば」の厠(トイレ)は外にありますよ。

今日の縁側便り
古民家カフェ「たてば」の縁側

「おむすび」って、なんて不思議な食べ物なんでしょうね。
派手なおかずがなくても、それだけで心がほぐれて、
「今日も1日元気に過ごせる」って思える。
「今年はお米が高くなるかもしれないよ」と、近所の八百屋さん。
でも、千枚田の水音を思い出したら、
少しくらい高くなっても、大切に、感謝しながらいただこうと思えました。
そして、古民家カフェ「たてば」で食べた、あたたかなおむすびの味も──忘れずにいたいと思います。
いつも、お話を聞いてくださりありがとうございます。
心の中のお店を、ばぁばちゃんはいつも、そっと開けています。
それではまた――お茶をいれて、お待ちしております。
