小さな親孝行

春の気持ちいい風に誘われて、母を誘い、ふらっと海辺の食堂に寄ってみました。
ちょっとくたびれたような入り口で、外観は「よくあるお店かな」って感じ。
ガラガラって引き戸を開けると…
あら、なんだか意外と落ち着く空間。
「今日のオススメは、とれたてアジフライ」が目に留まりました。
心を鎮める水の音

店内に入ると、ふわっと、潮の香りが混じったような、
ほっとする落ち着いた静かな空間。
ざわーっていう水の音が、なんか心地よく響いてくる。
その穏やかな音に惹かれて奥へ目をやると、小さないけすがありました。
生簀のアジと母のつぶやき

澄んだ水の中を、銀色の魚がゆらゆら泳いでる。
新鮮なアジの群れが、キラキラと光っています。
それを見てた母が、
「この子たちが、これから美味しいフライになるんだねぇ…」。
ふと、つぶやきました。
私も、一匹のアジと目が合った気がして、なんだかちょっと神妙な気持ちになりました。
命をいただくってことだよね。
ほんの少しだけど、畏敬の念みたいなものが湧いてきました。
揚げたてアジフライとの出会い

しばらくして、待ってた揚げたてのアジフライが運ばれてきました。
湯気がふわっと立ちのぼり、お腹がぐぐぐーっ。
「ごめんね、でも美味しくいただくよ」って心の中で言ってから、熱々のアジフライに箸を伸ばしました。
サクッとした軽い衣を割ると、中からふっくら柔らかな身が登場。
じゅわ~っと口の中に豊かな旨みが広がる。
「あ、これは…!」
思わず口元がほころびました。
春のアジの特別な味わい

「これが、春のアジかぁ」
何気なくつぶやいたその声に、
いけすのアジが、
「でしょ?」と得意げにうなずいたような気がした!
アジって一年中いるけど、春から初夏にかけてが、最も脂がのって美味しい季節なのだそうです。
「春のオレ、なかなかやるでしょ?」って、
なんかちょっと誇らしげなアジの姿が、頭に浮かんできました。
無言で完食する母の姿
そんな私の妄想とは裏腹に、隣の母は黙々と箸を進めてる。
そして、気がつけば、いつもは小食な母が、「私、全部食べちゃった」。
小どんぶりのご飯をぺろりと完食していたのです!
私が「へえ、珍しいね」と少し驚いた顔をすると、母は満足そうに「うん」と一言。
言葉は少ないけれど、その様子から、本当に美味しかったんだなと感じた。
普段は決して仲良し親子ではないけれど、今日の母の笑顔が、何だか嬉しかったです。
また季節が巡ったら

「今日はありがとうね。
たまには、こういうのもいいねぇ」って
母はすごく嬉しそうでした。
普段はクールな私だけど、
「たまには、こういう何気ない日常で見つける、小さな親孝行も大切なんだな」って思いました。
また季節が変わったら、今度はどこに連れて行こうか?
どんな美味しいものに出会えるかな。
そんなことを思いながら、帰りに春のつつじ公園に寄り道しました。
今日の縁側日記

今日、母と出かけて、季節の変わり目を感じながら、しみじみと“旬の味”を楽しめました。
そして「ちょっぴり親孝行」ができて、なんだか嬉しかった日。
食後に寄った公園のつつじも咲き始めてて、春の風が、花を揺らしながら、ほんのり甘い香りを運んできて…
これもまた、春のごちそうでした。
アジって一年中見かけるけれど、4月はちょうど旬の時期。
産卵を控え、身に栄養を蓄えるそのタイミングが、脂がのっていて味わい深くなるんですね。
高たんぱくで低カロリー、からだも心も喜んでいる気がしました。

そういえば、鯵の「たたき」は、伊豆半島の郷土料理なんだそう。
それが東京の料亭で出されて、生の美味しさが全国に広まったらしいです。
今ではお刺身やお寿司でもよく食べますよね。
普段はついつい「安くて手軽」なものを選びがちですが、こうして季節の恵みをいただくのは、やっぱり特別だなぁって思いますね。
そんなわけで今日は、「ばぁばちゃんの台所カフェ」もちょっとお休み。
またひとつ、心温まる思い出と“おいしい”のストックが増えました。
これからも、季節の移り変わりや、日々の出来事、そして心温まるレシピなどを、ゆっくりと綴っていきたいと思っています。
どうぞ、お気軽に遊びに来てくださいな。
ではまた、お茶を淹れてお待ちしています。
読んでいただき、ありがとうございます。

おかえりなさい。
「ばぁばちゃんの台所カフェ」より